入社からわずか1週間で何の連絡もなく辞めた社員がいます。
すると、給料日にその社員の親族と名乗る人が会社に連絡してきて、給料を支払えと言ってきました。
その人は、「委任状を持ってきているのだから問題ないだろう」と言います。
本人に、何度連絡しても電話に出てくれず一切連絡がとれません。
この代理の人に給料を支払っても大丈夫でしょうか?
本人以外の人への給料の支払いは労働基準法第24条に違反しますので無効となります。
委任状があったとしても同様です。本人以外への給料の支払いは一部の例外を除いて無効となりますので、今回受け取りに来た人への支払いは行わない方が無難です。
詳しくは、以下の解説を参照ください。
もっと詳しく
そもそも労基法では、給料の中間搾取などを防ぐために本人以外の人への給料の支払いを禁止しています。(労基法第24条第1項に「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と定められている)
もし、全く関係のない第3者が受け取りに来て、給料を渡してしまってもその支払は無効です。
そのあとに本人から「給料を払って」と言われると、本人にも支払わないといけません。
そのため、本人以外の人が受け取りに来ても支払うべきではありません。
できれば、本人に振込先口座を確認して振込をしたいところです。
どうしても、本人と連絡が取れない場合は、未払いにしないためにも法務局に供託しましょう。
委任状を持ってきたときは?
それでは、本人以外の人が委任状を持ってきた場合はどうなるでしょうか?
日常のいろんな場面では、委任状があれば本人の代理人として行動することができます。(例えば、住民票を本人の代わりに取得したり)
それと同じで、本人が書いた委任状に、「給料の受け取りを○○さんに委任します」と書いてあって、その委任状を○○さんが持ってきたときはどうなるの?という疑問が出てきます。
なんとなく、委任状が有効で支払っても問題ないような気がしますよね。
でも、やっぱりこれも無効です。
行政解釈(昭63.3.14 基発150号)では、労基法第24条の定めは民法の委任、代理規定の特例であるとしていて、労働者が他の人に給料を受け取る権利を渡す行為自体を無効だと判断しています。
もっと簡単に言うと「他の人が給料を受け取る委任状は無効」ということです。
そのため、今回の質問のケースでは、社員の親族と名乗る人が委任状を持ってきたとしても支払うべきではないとういことになります。
使者への支払いという例外
それでは、本人以外が給料を受け取ることが絶対にできないかと言われるとそうではありません。
使者という例外があります。
ちなみに、使者というのは「自らの判断で行動することなく、本人の手足となって動く者」を言います。
ちょっと分かりにくいですね。
では、具体的にどういう場合にどんな人が使者と判断されるか例を挙げると
- 本人が病気で会社に来れない(事情がある)
- 妻が受け取りに行くと本人から連絡がある(本人の意思を確認)
- 使者選任届を持った妻が会社に給料を取りに来る
これらの条件が揃ったときは、妻を使者として判断しても問題ないと思われます。
そのため、ただ単に使者だと名乗った人が給料を受け取りに来ても、その人は本当に使者であるか判断できないので払うべきではありません。
もし支払ってしまったらどうなる?
では、間違って本人以外の人に支払ってしまった場合はどうなるのでしょうか?
例えば、社員Aさんの給料を他の人Bさんに払ってしまったとしましょう。
この場合、もちろんBさん不当利得となるので返還請求できます。
が!
Bさんが返してくれるかどうかは関係なく、Aさんには給料を支払う必要があります。
Aさんへの支払いとBさんからの回収は別問題ということになり、この考え方が基本となります。
そのため、会社としては本人以外の人に支払うのはリスクであると思ってください。
ちなみに、Bさんに支払った給料がAさんに全額渡った場合は、もちろんAさんに給料を支払ったのと同じ意味になるので、Aさんに支払う必要はなくなります。
法律ってややこしいですね。