私はいろんな会社の給与計算を見てきましたが、本当に正しい残業計算を行っているのは、ほんの一握りの会社でした。
しかも、それが正しいと思って計算してるんです。
ん?ということは。。
キチンと残業を払っているつもりでも、間違って計算しているせいで、知らない間に未払い残業が発生していることがあるということです。
もちろん、社員に請求されれば遅延損害金も含めて払わないといけません。
そんなことにならないためにも、正しい残業計算を学ぶのはとても大切です。
まずは残業単価の計算方法
残業計算をするためには、社員の残業単価を正しく計算する必要があります。
時給制であれば、その時給額が残業単価になりますので間違えることはほとんど無いでしょうから、ここでは月給制(または日給月給制)の場合で説明します。
月給制の場合、その社員の月額給料から残業単価を計算します。
この計算式自体は全然難しくないですね。
基本給と各種手当を足したものを1ヶ月あたりの平均所定労働時間で割れば単価が出るというとてもシンプルな式です。
ところで、「1ヶ月あたりの平均所定労働時間」って何??
と思った方は、別の記事「1ヶ月あたりの平均所定労働時間って何??」で説明していますので、そちらをご覧ください。
ちなみに、残業単価を計算する具体例をあげると
- 基本給20万
- 皆勤手当2万円
- 資格手当3万円
- 1ヶ月あたりの所定時間が160時間
とすると
となるわけです。
このように、残業単価の計算式自体はそれほど難しくありません。
が!
実際は、その運用で間違いをおこす会社がたくさんあります!
その間違いのせいで、知らない間に未払い残業が発生していることがあるので本当に恐ろしい話です。
あとで、社員や労働基準監督署に指摘されて、過去2年分を支払うことになってしまうと、会社にとって大打撃になります。
そんなことにならないよう、ここで確認をしておきましょう。
いろんな会社を見てきましたが、残業単価を計算する際に、特によく間違われる点がこの3点です。
1.各種手当を足さずに基本給だけを割ってしまう
2.1ヶ月の平均所定労働時間を適当に200時間などにして計算してしまう
3.割増率を誤って計算してしまう
よくある間違い1
各種手当を足さずに基本給だけを割ってしまう
これは、本当によく見かけます。
各種手当を足さずに基本給だけを割って計算してしまうと、残業単価が低く計算されてしまい、本来の単価との差額が未払いになっているケースです。
役職手当や皆勤手当、資格手当なども全て足す必要があります。
ただし、一部の手当は、足さなくても良い手当として、労働基準法施行規則第21条に定められています。
手当の名前 | 説明 |
家族手当 | 扶養家族数に関係なく一律に支払われるものは、ここでいう家族手当に該当しませんので、割増賃金の基礎となる賃金に含めなければなりません。 |
通勤手当 | 通勤距離や通勤の実費に応じて支給される手当のことで、実際の距離や費用に関係なく一律に支給される場合は、ここでいう通勤手当に該当しませんので、割増賃金の基礎となる賃金に含めなければなりません。 |
別居手当 | 業務の都合で、扶養家族と別居を余儀なくされた社員に対して、別居することで生活費が増える部分を補うために支給するものです。単身赴任手当などがこれにあたります。 |
子女教育手当 | 社員の子ども(子弟)の教育費を補う為に支給されるものがこれにあたります。 |
住宅手当 | 家 賃やローンの一定比率を支給するものや、家賃やローンの金額ごとに「家賃が4万から5万なら住宅手当1万円」という感じにいくつかの区分に分けて支給する ものがこれにあたります。住宅の種類ごとに一律に定額で支給する場合は、ここでいう住宅手当に該当しませんので、割増賃金の基礎となる賃金に含めなければ なりません。 |
臨時に支払われた賃金 | 退職金や私傷病見舞金など、臨時的に支払われるものがこれにあたります。 |
1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金 | ボーナスや1ヶ月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当、1ヶ月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当などがこれにあたります。 |
基本的には、これらの手当以外は全て残業単価として計算に入れる必要があります。
重要なのは、手当の名前ではなく、手当の意味ですので名前だけ上記のように変更してもダメで、残業単価として計算に入れる必要があります。
よくある間違い2
1ヶ月の平均所定労働時間を適当に200時間などにして計算してしまう
これも本当によく見かけます。
ひどいところなんて、基本給を200時間で割って単価を出しているところもあります。
なぜ、200時間で割ってはいけないのか?
そう思われるかもしれませんので、根拠を出したいと思います。
ご存知のとおり、労働基準法では法定労働時間は、1週間40時間までとなっています。
それでは、1年間の法定労働時間の上限は何時間でしょうか?
そのためには、1年間が何週間あるか計算する必要がありますね。
365日÷7日(1週間)=52.14285・・・・およそ52週間
では、1年間の法定労働時間の上限は
52週間×40時間=2080時間
では、1ヶ月の法定労働時間の上限は
2080時間÷12ヶ月=173.333・・・・・およそ173時間
(10人未満の診療所など一部の例外を除く)
つまり、どんなに頑張っても1ヶ月あたりの平均所定労働時間は173時間までなので、200時間で割るなんて、ありえないのです。
でも、手当を残業単価の基礎に入れて、平均所定労働時間を正確に計算すると、残業単価が上がってしまって、人件費が上がってしまうので困る!
と、こんな声が聞こえてきそうです。
でも、労働基準法施行規則で決められていることなので仕方がありません。
あきらめて、正しく計算しましょう・・・。
と言ってしまっては、残業対策のプロとは言えません!
実は、対策はあります。
でも、今回は「残業計算の正しいやり方」がテーマですので、まずは正しい計算方法をマスターしてください。
残業対策はその後です。
よくある間違い3
割増率を誤って計算してしまう
コレに関しては、上記2つとはちょっと事情が異なります。
どういうことかと言いますと、実際は割増率が「1.25」でよいケースで割増率「1.35」にしているのをよく見かけます。
割増率を小さく計算すると未払いが発生しますが、大きく計算した場合は過払いになります。払いすぎにご注意ください。
時間外労働の正しい割増率は次のとおりです。
労働の種類 | 割増率 | 説明 |
時間外労働 (法定内残業) |
1.00 | 残業を行っても、実際の労働時間が1日8時間以内であったり、1週40時間以内の場合。例えば、1日の所定労働時間が7時間のときに、8時間働いた場合などがこれにあたります。1時間は残業ですが、法定労働時間内なので割増率は1.00になります。また、雇用契約で別に定めることもできます。間違って1.25で支払っているケースをよく見かけますのでご注意ください。 |
時間外労働 (法定超残業) |
1.25 | 実際の労働が、1日8時間または1週40時間を超えた場合がこれにあたります。 |
休日労働 (法定外休日) |
1.00 または 1.25 |
例 えば、土曜日・日曜日・祝日が所定休日で、その日に出勤した場合、この労働は残業にはなりますが、上記2つの法定内残業なのかそれとも法定外残業なのかに よって割増率が異なります。つまり、土曜日・日曜日・祝日だかといって特別な計算があるわけでなく、1日8時間、1週40時間を越えているかどうかによっ て決まるわけです。ただし、法定休日にあたる場合は、次の行になります。 |
休日労働 (法定休日) |
1.35 | 例 えば、就業規則で日曜日が法定休日と定めてある場合、日曜日に労働した場合は、出勤した瞬間から割増率1.35になります。定めが無い場合は、年度の初日 から4週ごとに区切って4日の休みが確保されている場合は、その4日が法定休日になります。※どの休日が法定休日になるかは、就業規則で定めるとおりで す。確保されずに労働した結果、4週3休となれば、1日は法定休日の割増になります。 |
深夜労働 | 0.25 | 22時から翌朝5時までがこの深夜労働にあたります。よく勘違いされるのですが、深夜労働は、1.5ではありません。 あくまで、深夜労働の割増は0.25です。深夜労働の多くは、1日8時間を越えて労働した結果、深夜に労働することになるので、1.25+0.25=1.5となっているわけです。 |
ちなみに、割増率は就業規則や個別の雇用契約で法を上回る率を定めることができます。
そのため、法定内残業の割増率を1.25と定めてしまうと、本来は1.00で支払えばよいところを、1.25で支払う必要が出てきます。
こういったことを知らずに、このような定めをしてしまっている就業規則を今までたくさん見てきました。
就業規則の作り方一つで、ムダな残業代を支払うことになってしまいますので、十分に注意して作成する必要があります。
そのムダな残業代を排除すれば、浮いた金額をボーナスにまわして優秀な社員に還元することも出来ますし、昇給の原資にすることもできます。
または、業務効率をアップするために新しいパソコンを買うこともできますね。
こんなふうに、いろんな事を考えながら作成する必要がありますが、今回の記事のテーマではありませんので、この辺にしておきます。
さて、残業計算の正しいやり方については、細かい例外はありますが、基本的な考え方は以上になります。
あなたの会社の給与計算は大丈夫でしたか?
基本とはいえ、なかなか複雑です。
もし、心配な場合はお近くの社会保険労務士に依頼してチェックしてもらいましょう。
知らない間に未払いがあったというのでは、困りますからね。
さて、割増率の例外については、別の記事で一つずつ解説してますので、そちらをご覧ください。