複数の社員が不祥事を起こしましたため、その社員に対して、始末書を提出するように伝えたところ、1名の社員から「始末書を提出する気はありません!」と言われました。
他の社員は始末書を提出したのですが、この1名だけ提出しようともしません。
このような場合、この社員に対して懲戒処分を行うことができるのでしょうか?
始末書の提出は、憲法に定める「思想・良心の自由」に関係する問題のため、一般的には提出を強制できないとされています。
そのため、始末書を提出しないことを理由に懲戒処分を行うのは無効となるリスクがあります。
もっと詳しく
始末書の提出を拒んだ場合に、懲戒処分を行うことができるかどうかという問題については裁判例が分かれていて、非常に難しい問題となっています。
労働者は企業のルールを守る義務や秩序を守る義務があるから、懲戒処分を行うことができるという判例も有りますし、法律上の問題でできないとする判例もあって企業としては対応を迷うところです。
個人的には企業秩序を維持するためには、始末書の提出を拒否した場合に懲戒処分を認めても良いのでは?と思います。
しかし実務上は、始末書の提出を拒否された場合は、懲戒処分を行わない方が良いと考えています。(理由は、後ほど記載)
労働者が不祥事を起こして、更に始末書の提出まで拒否して、それが憲法に守られる。
これってよく考えると変な話です。
これだと、会社としては不祥事の証拠も残しにくいですし、納得のいかない状態となります。
では、どうすれば良いのか?
不祥事を起こした労働者が、どうしても始末書の提出を拒否する場合は、業務命令として顛末書の提出を命じましょう。
顛末書とは、不祥事などの具体的な内容、客観的事実、その背景事情を記載したものです。(顛末書に関する詳しい説明はこちらをご覧ください)
この内容であれば、憲法に定める「思想・良心の自由」に関連しませんので提出を強制できます。
提出してもらえればそれが不祥事の証拠として残りますし、顛末書すら提出を拒否した場合は、業務命令に従わなかったことを理由に就業規則に基づいて懲戒処分を行うこともできます。
それであれば、無効になるリスクを負ってまで始末書を提出させることにこだわる必要は無いと考えています。
他にも何か対処できないのか?
始末書の提出を拒否した場合に、それを理由として懲戒処分が出来るかどうかについては上記のとおり争いがあります。
しかし、始末書の提出を拒否したことを理由に、その後の人事考課や配置昇進などについて査定上の事情として考慮することは一般的に許されると考えられているようです。
私個人の意見としても、ある程度は査定上の事情として考慮して良いと思います。(もちろん、査定上の裁量を超えて不利益な扱いをすると無効になる可能性はあります)
今回のポイント
- 始末書の提出を拒否されたことを理由に懲戒処分を行うことはリスクがある。
- 顛末書の提出であれば業務命令として強制できる。
- 始末書の提出を拒否したことを、査定上の事情に考慮することは可能と考えられる。